適切な予防と対処で感染の拡大を未然に防ぐ-国保でHOT情報2014年1月号
冬に流行しているインフルエンザと嘔吐下痢症。未然に感染を防ぎ、しっかりと対処したいものです。そこで、国保でHOT情報では、インフルエンザと嘔吐下痢症について鹿児島大学大学院医歯学総合研究科微生物学分野の西順一郎教授にお話を伺い、12月11日と18日にお伝えしました。
インフルエンザと嘔吐下痢症の症状と感染予防
インフルエンザの流行状況について教えてください。
西教授
12月から患者が増えはじめ、1月から2月にA型による大きな流行がみられます。また3月から4月にはB型による小さな流行がみられることがあり、4月ぐらいにおさまります。
インフルエンザの症状を教えてください。
西教授
感染して1日から4日以内に症状が出ます。典型的な症状は、突然の高熱、のどの痛み、鼻水、鼻づまり、咳、そして全身のだるさ、頭痛、関節痛などです。普通のかぜより全身的な症状が強いのが特徴です。しかし人によっては、普通のかぜ程度の軽い症状のこともあります。なかなか見分けが難しいです。
インフルエンザは、おしゃべりや咳やくしゃみをする時に口から飛び出す小さな粒子を吸い込むことで感染すると話す、西順一郎教授(右)と藏薗千尋リポーター |
かぜと見分けがつかないこともあるということでしょうか。
西教授
そうです。流行期には普通のかぜのような軽い症状でも、インフルエンザウイルスを出しているかもしれませんので、人にうつさないような配慮が必要です。
正しいマスクの着用で感染拡大を防ぐ
西教授
インフルエンザはどのようにしてうつるのでしょうか。
人がおしゃべりをしたり、咳やくしゃみをするときに口から飛びだす小さな粒子を吸い込むことで感染します。発症者の周囲1mから2mぐらいで感染しますので距離が重要です。
どうしても近づく場合はどうすればいいでしょうか。
西教授
マスクで予防しますが、マスクと顔のあいだにすきまがあるとそこからウイルスを含んだ粒子を吸い込みますので、すきまがないようにしっかりとつける必要があります。ただ、マスクは本来咳などの症状がある人がつけるものです。インフルエンザかどうかに関わらず、かぜ症状がある人が他の人に近づく場合には、あらかじめマスクを着けていただきたいと思います。
マスクの正しい使い方が大事ということですね。手洗いはどうでしょうか。
西教授
症状のある方が鼻をかんだりしたあとには、手にウイルスがたくさんついていますので、ひろげないように手洗いが大切です。また、症状がある人が触れたところをさわったあとで、すぐに自分の口や鼻を触ると感染しますので、感染予防の基本として手洗いは大切です。
ワクチンはどうでしょうか。栄養と睡眠で病気を治す
西教授
ワクチンは予防にとても大事です。効果は完全ではなく、接種してもかかることはありますが、発症のリスクを下げる効果ははっきりしています。接種後2週間から5カ月まで効果があります。早めの接種をおすすめします。
次にインフルエンザの診断方法について教えてください。
西教授
外来で鼻に綿棒をいれて行う迅速検査が可能です。ただし、症状が出て12時間以内ではウイルス量が少なく、結果が陰性になる可能性があります。また、そのあとでも必ずしも100%正確ではありません。医師は検査だけではなく、周囲の流行状況や症状から診断しますので、必ずしもすべての人が迅速検査を受ける必要はありません。
インフルエンザと診断されたら、どのような治療が行われるのでしょうか。
西教授
抗インフルエンザ薬は、早めに飲めば、熱が1日半から2日早くさがるという効果があります。内服薬と吸入薬がありますが効果はほぼ同じです。また漢方薬でも効果のあるものがありますのでご相談ください。
薬があるのでしたら、早めに医療機関を受診したほうがいいのでしょうか。
西教授
インフルエンザは基本的には自然に治る病気です。重症でなければ、自宅で栄養と十分な睡眠をとって様子をみるというのもひとつの方法です。ただ、慢性の病気を持っている方や免疫を抑える薬を飲んでいる方には、早目の受診をおすすめします。
感染経路は食べ物と感染者との接触感染嘔吐下痢症の流行について教えてください。
西教授
嘔吐下痢症はウイルスによっておこる急性胃腸炎のことで、ノロウイルスによる流行は12月から1月にかけて、ロタウイルスによる小児での流行が1月から4月ぐらいにみられます。ノロウイルスは、成人も子どもも感染しますので、大きな流行になります。
嘔吐下痢症の症状を教えてください。
西教授
感染して12時間から2日目に症状が出ます。吐き気や嘔吐で始まり、水様性の下痢や腹痛を伴います。熱はそれほど高くなりません。その後2日から3日で自然に回復します。乳幼児や高齢者では脱水になり、重症化することがあります。
ノロウイルスはどのようにして感染するのでしょうか。
西教授
ノロウイルスは食べ物を介した感染と感染者からの接触感染の二つでうつります。食べ物では、カキなどの2枚貝を生で食べることで発症します。また調理をする人の手から食材にウイルスが移り、集団食中毒となることもあります。現在食中毒患者数の半分はノロウイルスによるものです。
接触感染というのはどういうことでしょうか。
西教授
発症者の嘔吐物や下痢便にはたくさんのウイルスに含まれていますので、それらに直接接触したり、汚染した環境から手を介して感染します。発症者が使用したトイレの便座、水洗のレバーやスイッチ、ドアノブなどよく触るところはウイルスがたくさん残っており、感染源となります。ロタウイルスの感染経路も同様です。
大事なのは環境の清掃と消毒、そして手洗い
それでは予防に大事なことは何でしょうか。
西教授
食べ物からの感染では、カキなどの2枚貝は十分加熱して食べることが必要です。調理者の手洗いももちろん重要です。接触感染を予防するには、患者の周囲や使用したトイレなど環境の清掃と消毒、そして手洗いが大切です。特に吐物を清掃するときは、マスクや使い捨ての手袋をつけて、周囲を広めに清掃し最後に塩素系の消毒剤で消毒します。汚染した衣服は、熱湯による消毒も効果的です。
アルコール消毒はいかがでしょうか。
西教授
ノロウイルスやロタウイルスにはアルコールの効果は十分ではありません。環境の消毒には塩素系の消毒剤を用い、手洗いは流水と石けんでしっかり行う必要があります。
発症者が使用したトイレの便座、水洗のレバーやス イッチ、ドアノブなどが感染源となります |
大切なのは脱水の悪化を防ぐこと
マスクや使い捨ての手袋をつけて清掃します |
ワクチンによる予防はどうでしょうか。
西教授
ノロウイルスにはまだワクチンがありません。ロタウイルスには、乳児用の口から飲むワクチンがあります。入院が必要となるような重症の胃腸炎を90%予防する効果があります。
それでは次に嘔吐下痢症の診断についてお聞きします。
西教授
ロタウイルスは、便を用いた迅速検査が可能です。ノロウイルスの迅速検査もありますが、一般にはあまり行われていません。嘔吐下痢症は症状から診断しますし、また原因ウイルスがわかっても治療法は変わりませんので、特別な場合を除いてあえて検査する必要はありません。
どのような治療が行われるのでしょうか。
西教授
効果的な治療薬はありませんので対症療法になります。一番大切なのは、脱水の悪化を防ぐことです。電解質を適切に含んだ経口補水液による水分補給が有効です。薬局などで購入できますのでご利用ください。特に乳幼児や高齢者では脱水になりやすいので重要です。薬では整腸剤や吐き気止めを用いることがあります。下痢止めはウイルスの排泄を遅らせますので原則として使用してはいけません。食事は嘔吐がおさまれば、消化の良いものをとってかまいません。