妊娠期からのお手入れで 子どものむし歯予防-国保でHOT情報2012年7月号
鹿児島県の子どものむし歯有病率についてご存知ですか。実は、1歳6カ月児で4.28%と非常に高く、全国ワースト1位なのです。そんな中、お口の健康と全身の健康との関係や、妊娠期のお口ケアが胎児に与える影響等が注目されています。そこで国保でHOT情報では、お口と全身の健康のつながりについて(社)鹿児島県歯科医師会の福原和人理事に、また、お母さんと乳幼児の歯の健康について同会の奥猛志常務理事にお話を伺い、5月30日と6月6日の2週にわたってお伝えしました。
全身に影響を及ぼすむし歯や歯周病
近年、お口の状態が全身に及ぼす影響について、よく耳にしますね。
福原理事
まずはお口の役割について考えてみましょう。最も重要な役割は「食べること」ですね。人は生命を維持するために、栄養を口から摂取しなければなりません。すなわち生命を保つための器官なのです。
普段はあまり意識しませんが、「食べること」は生き物全てにおいて、生命を維持するということですね。
福原理事
はい。それともう一つ、人間にとって大切な役割があります。
それは何ですか。
福原理事
コミュニケーションの手段の一つだということです。手話や筆談もありますが、口は「話す」手段として大切な役割を果たします。歯が抜け落ちたり、口の周りの筋肉が衰えてくると、コミュニケーションに支障が出たり、発音や顔の表情にも影響を及ぼします。
歯や口は全身の病気とも深い関係があるそうですね。
福原理事
お口の中の病気には大きく2つあります。皆さんご存じのむし歯と歯周病です。基本的にこれらの病気は細菌感染によるものです。以前は口の中だけの病気だと思われていましたが、これらの菌が全身に影響を及ぼしていることが近年、実証されてきました。(図1説明)このように、口の中の菌が全身に及ぼす影響はさまざまなのです。
こんなにたくさん!「噛む」健康効果
普段、私たちが気をつけなくてはいけないことがありますか。
福原理事
まず「よく噛む」ということです。「噛む」ことには色々な健康効果があります(図2)。噛む筋肉は顔の表情筋にも共通するので、表情の若々しさを保ちます。また、脳への血流が増し、脳が活発に働き、認知症予防にもつながります。さらに、唾液の分泌量が増えて、消化吸収を助け、食べ物本来の味が分かるようになり、肥満予防につながります。
よく噛んで食べるように習慣づけることが大切ですね。
福原理事
あとは当然のことながら、セルフケアとして食後の歯みがきとかかりつけ歯科医による定期的な検診、すなわちプロフェッショナルケアが大切です。また、市町村で行っている歯周疾患検診などを積極的に受けるといいですね。昨年度から始まったのですが、75歳になった時に入る後期高齢者医療に移行した時の「お口元気歯ッピー検診」では、飲み込みの検査等も行いますので、ぜひ受診していただきたいと思います。
歯周病で高まる低出生 体重児や早産のリスク
本県の子どもたちのむし歯有病率は極めて高い。妊娠期からのケアも、子どもをむし歯から守る一助となる |
鹿児島県歯科医師会では、「歯っぴいマタニティー事業を行っているそうですね。どのような事業なのですか。
奥常務理事
この事業は、妊婦さんに歯やお口のことに関心をもっていただいて、お口の中をきれいに維持していただくことを目的としています。
妊婦さんと一般の方々とでは、お口の中をきれいにすることの意義に違いがあるのでしょうか。
奥常務理事
妊婦さんの場合では、大きく2つのことが重要になります。1つ目に、妊婦さんが歯周病になると、低出生体重児や早産のリスクが高くなることが挙げられます。歯周病のばい菌が胎児の成長の邪魔をしたり、子宮の収縮を起こして早産を引き起こすと言われています(図3)。
低出生体重児について、詳しくお聞かせ下さい。
奥常務理事
2500g未満で出生した場合が低出生体重児と呼ばれており、22~36週で出産された場合が早産です。早産で生まれた場合が低出生体重児の可能性が高くなります。低出生体重児では障害が伴ったり、長期入院が原因で親子の愛情障害や児童虐待が引き起こされたり、さらには高血圧や糖尿病のリスクも高くなると言われています。
鹿児島県は低出生体重児の割合が多いのでしょうか。
奥常務理事
平成22年の鹿児島県の低出生体重児の割合は10.4%であり、全国ワースト5位でとても多いのです。そのため本県も平成22年度から「健やかな妊娠・出産支援事業」を行い、低出生体重児の減少を図っています。
この現状に対して、鹿児島県歯科医師会はどのような取り組みをされているのでしょうか。
奥常務理事
本会では鹿児島県と協同で、ポスターの作成や母子健康手帳交付時にお渡しするリーフレットを作成しました(図4)。ポスターは公共機関や産婦人科、歯科医院に掲示してあります。
妊娠5~7カ月の安定期が治療に最適
それでは妊婦さんがお口の中をきれいにする2つ目の意義を教えてください。
奥常務理事
お口をきれいにすることで、生まれてくる赤ちゃんのむし歯予防につながります。 歯を溶かすむし歯菌は、生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中にはいません。歯が生える頃に親や兄弟から感染するのです。しかし、お母さんがお口の中をきれいにしていると、むし歯菌の感染を遅らせることができます。そうすると子どももむし歯になりにくくなるのです。平成22年度の調査で、本県は1歳6カ月児の4.28%にむし歯があり、全国最下位でした。3歳児も29.35%でワースト9位と、本県の子どもはむし歯がとても多いのです。そこで妊娠期からのむし歯予防がとても大切になるのです
お母さんの歯みがきだけで大丈夫なのでしょうか。
奥常務理事
きちんと歯磨きをすることがとても大切なのですが、むし歯があると歯の穴の中にむし歯菌がたくさんいますので、むし歯の治療をすることも必要です。また、最近の研究では、妊娠中からキシリトールガムを噛む習慣をつけることが子どものむし歯予防につながると言われています。
妊娠中も歯の治療はできるのでしょうか。
奥常務理事
妊娠5~7カ月の安定期が治療に適した時期です。歯科医院では妊娠中であることをきちんと告げましょう。また、妊娠したら積極的に歯科医院を受診して、必要な治療やお口のケアの仕方をしっかりと教えてもらいましょう。