歯科疾患を予防し健康な 口腔機能の維持-国保でHOT情報2013年7月号
歯・口腔の健康は、口から食べる喜び、話す楽しみを保つ上で重要であり、歯科疾患を予防し、歯の喪失を抑制することは、高齢期での口腔機能の維持にも繋がります。そこで、国保でHOT情報では、歯の喪失の主な原因である歯周病の予防について、公益社団法人鹿児島県歯科医師会の黒木敦朗理事に、また、高齢者が健やかな日常生活を送れるよう、何でも噛んで食べる事ができるといった咀嚼機能をはじめとする口腔機能について、同会の福原和人理事にお話を伺い、5月29日と6月5日の2週にわたってお伝えしました。
歯と口の健康週間
これまで6月4日からの1週間は「歯の衛生週間」という名称だったと思うのですが。
黒木理事/
平成23年8月に「歯科口腔保健の推進に関する法律」という法律ができたのをご存知でしょうか。内容は「歯」だけではなく、歯を含めたお口全体の健康を考えてほしいということです。そこで今年から「歯と口の健康週間」という名称になったわけです。
歯周病予防は丁寧な歯みがきから
お口全体の健康ということですが、どういった状態をいうのでしょうか。
黒木理事/
むし歯や歯周病などの病気がない状態で、話す・噛む・飲み込むといったお口の働きが正常な状態を言います。お口が健康で歯がたくさん残っている方は、お年を召されても体も頭も健康であると報告されています。歯を失う原因では現在歯周病が1位となっており、残った歯が少ない人ほど早く歯がなくなっていくことが知られています。
歯周病になる原因は何でしょうか。
黒木理事/
原因は生活習慣、喫煙、体全体の病気等色々ありますが1番は歯周病菌などのバイ菌の巣である歯垢です。歯垢は、食べかすをバイ菌が分解してできたものです。この様に(図1)専用の染めだし液を使用すると歯垢が残っている部分に反応し、赤く染まります。歯茎から血が出たり腫れたりを繰り返しながら骨が溶けて、歯周病は静かに進行します。最後は歯が抜けてしまいます。
歯石=バイオフィルム |
では、歯周病を予防するにはどうしたら良いのでしょうか?
黒木理事/
1番効果的なのは、丁寧な歯みがきです。歯垢は毎日歯みがきで取り除かないと石灰化して歯石になってしまいます。歯石になると通常の歯みがきでは取り除くことができません。
歯周病を予防するには、毎日歯ブラシでしっかり歯をみがくことが大切なんですね。
黒木理事/
そうですね。歯垢はお風呂や流しのぬめりと一緒で、毛先が当たらないと除去出来ませんので、歯ブラシを使ったあと、歯間ブラシや糸ようじを使って歯と歯の間もみがくとより効果的です。
定期的な健診で重症化予防につなげる
歯周病と関連のある全身疾患について話す黒木敦朗理事 |
他に予防のポイントはありますか。
黒木理事/
あります。かかりつけの歯科医院で定期的に歯科健診を受けていただくということです。
きちんと歯磨きをしたつもりでも、磨き残しがでてきます。歯磨きだけで歯垢や歯石を完全に取り除くことは、無理があります。定期的に歯科医や歯科衛生士によるチェックを受け治療だけでなく重症化予防のため個人にあった歯みがき法や生活習慣を受けていただくことをお勧めします。
歯周病予防は、セルフケアとプロフェッショナルケアの両方が大切なんですね。では、少し話は変わりますが、歯周病予防は全身の健康にも良い影響があると聞いたことがあるのですが。
黒木理事/
はい。例えば、糖尿病の方は歯周病が進行しやすいことが知られていましたが、逆に歯周病を治療すると血糖値が一定期間改善されると報告されています。
他にも(吹き出し)のような疾患に関連があると言われ、心血管疾患、がん、慢性呼吸器疾患などへの影響も無視出来ません。
お口の中をいつもきれいにしておくことによって、歯周病の予防だけでなく、全身の健康にも繋がるということですね。
黒木理事/
そのとおりです。
お口の機能低下で起こる事故
鹿児島県は全国でも高齢化率の高い県と言われていますが、高齢者の方々が健康でいるために、どういったことに気をつければいいでしょうか。
福原理事/
高齢者の方々が心身ともに健康でいるためには、歯とお口の健康がとても重要です。「食べること」をとおして、「家族や友人との団らん」が生きがいや楽しみになっている方も多いと思います。しかし、お口の機能は加齢とともに徐々に低下していまいます。
お口の機能が低下するとどのようなことが起こるのでしょうか。
福原理事/
歯や口の周りの筋肉の衰えや唾液の分泌の低下により固いものが噛みにくくなったりむせることが多くなるなど様々な症状がでてきます。
結果、野菜やお肉などがうまく摂取できずに低栄養に陥る可能性もでてきますね。また、飲み込みの機能が低下することにより、本来食道に入るべきものが、気管に入ってしまう誤嚥性の肺炎や窒息事故などにつながります。
意外と知られていませんが、年間5,000人近くの方が窒息で亡くなられています。
そんなにたくさんの方が亡くなられているんですね。高齢者の方は、お口の機能が低下していると実感できるのでしょうか。
福原理事/
徐々に低下していきますので、なかなか実感するのは難しいかもしれません。
食前に行うと効果的な体操
では、家庭で簡単にチェックする方法はありますか。
福原理事/
はい、あります、3つの項目の2つ以上該当するものがあれば、機能の低下を疑っていいとおもいます。
基本チェックリスト
- 半年前に比べて堅いものが食べにくくなりましたか?
- お茶や汁物等でむせることがありますか?
- 口の渇きが気になりますか?
お口の機能を維持するためには、唾液腺のマッサージが効果的と話す福原和人理事 |
では、お口の機能を維持するためには、どのようなことを行えばいいのですか。
福原理事/
はい、まず唾液腺のマッサージが効果的です。
唾液は嚥下においてとても重要な役割を持っています。唾液腺を刺激すると唾液がたくさん出るようになります。唾液が出ることによって口の中の乾燥をふせぎ、食べ物が飲み込みやすくなりますので食事の前に行うのが効果的です。
それから、嚥下体操というものがあります。
これらは、食事の前に行うと効果的です。お口の機能が向上すると、味覚の回復や発音がはっきりして話しやすくなったり、認知症の予防にもつながります。
他に気をつけることなどありましたら教えて下さい。
福原理事/
定期的にかかりつけの歯医者さんでお口の中の環境を整えておくことや、普段からお口をよく動かし、よく噛んで食事をとることがとても大切です。
元気で過ごすためには、お口の健康を維持することがとても大切ということですね。
鹿児島県、鹿児島県歯科医師会作成「お口の健康マニュアル」より引用 食事の前に行うと効果がある嚥下体操。 |
福原理事/
そうですね。いつまでもおいしく食べて健康寿命を延ばしていただきたいと思います。
簡単な嚥下体操をしてみましょう!!
- まずは深呼吸を3回
- 次に肩の上下運動と肩の前回し、後ろ回し
- そして首を前後ろに、そして右左、最後にぐるっと回しましょう。決して無理はしないようにしてください。
- 次はほっぺたを大きくふくらましましょう(あっぷっぷ)
- 最後に舌をあっかんべぇ~、そして上下左右に動かしましょう。
- はい、深呼吸をして終わりましょう。