第2回 人生100年時代の体づくり -教えて健康法 活動編-
第2回 知的活動編
介護・支援が必要となった主な原因で最も多いのは認知症(17・6%)であり(2019年国民生活基礎調査)、要介護の予防として認知機能の衰えを予防することは重要な課題である。また、加齢に伴う「虚弱」や「老衰」を意味するフレイルには、身体的な問題のみならず、認知・心理・精神的な問題も含まれ、身体機能の低下と認知機能の低下が併存すると、要介護の発生リスクがさらに高まる。そのため、高齢期における健康長寿の延伸のためには、身体を動かす活動のみならず、積極的な知的活動を促進して、脳の活性化を通して認知機能の低下を抑制する対策も求められる。
普段から取り組める活動として、本・雑誌または新聞を読むこと、手工芸や絵画制作・絵手紙などの作業を実践すること、ガーデニング・園芸の趣味を持つこと、などの知的活動を伴う習慣は認知症の発症リスクの低減につながることが期待される。また、2019年にWHO(世界保健機構)から発表された認知症予防のガイドラインにおいて、認知症のリスクを低減できるかのエビデンス(根拠)は不十分であるが、認知刺激や認知トレーニングによる認知的介入ではデメリットよりメリットの方が上回るとされ、条件付きで推奨されている。とりわけ、認知的な活動を促進するうえでは、表のようなポイントが挙げられる。
認知的な刺激を伴う活動として、運動と認知課題を組み合わせたコグニサイズを紹介する。コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターで開発された脳の活性化を促すプログラムで、全身を使う運動の課題と頭で考える課題を同時に行うことがポイントである。自宅でできるコグニサイズとして、コグニステップを紹介する(図)。まずは、前後のステップ運動を行う課題として、数字をかぞえながら、前後のステップを繰り返す。「1」の合図で足を一歩踏み出し、「2」の合図で元に戻す。「3」で反対の足を踏み出し、「4」で戻す。「5」以降はこの繰り返しで、可能であれば足は大きく踏み出し、足を一歩踏み出したときに少し重心を低くする(少しスクワットをするようなイメージ)と、さらに運動の負荷があがる。コグニサイズでは、このステップに認知課題を加える。例えば、声に出して数をかぞえながら前後のステップをしている際、3の倍数をかぞえる時には声を出さずに手をたたく課題を加える。これを繰り返して、1~30まで続ける。つまり、「3」、「6」、「9」、「12」・・・といった3の倍数でのステップ動作の時には手をたたく動作を加える。できるようになってきたら、少しステップを変えてみて、例えば「1」で足を前に出し、「2」で戻し、「3」で反対の足を前に出し、「4」で戻す。ここまでは前後のステップと同じで、次に「5」では足を横に出して、「6」で戻し、「7」では反対の足を横に出して、「8」で戻す。ここまでを1セットとし、「9」以降は前後左右のステップを繰り返す。この前後左右のステップを続けながら、同じく3の倍数をかぞえる時には声を出さずに手をたたく。
その他、有酸素運動として仲間とウォーキングを行いながら、しりとりをしたり、クイズを出し合ったりして、身体を動かす運動と頭を使う課題を同時に行う機会を少しずつでも普段の生活に取り入れてみることをお勧めする。
このような脳の活性につながる活動の習慣化によって、認知機能の低下を抑制することが期待される。
プロフィール
氏名 牧迫 飛雄馬
現職
・鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
・国立長寿医療研究センター予防老年学研究部 客員研究員
・放送大学 客員教授
学歴
平成13年 国際医療福祉大学保健学部理学療法学科卒業(理学療法士)
平成15年 国際医療福祉大学大学院博士前期課程修了(修士(保健学))
平成21年 早稲田大学大学院博士後期課程修了(博士(スポーツ科学))
専門領域
健康・スポーツ科学、介護予防、地域リハビリテーション、老年学
専門理学療法士(生活環境支援理学療法・基礎理学療法)、認定理学療法士(介護予防)