第1回 人生100年時代の体づくり -教えて健康法 活動編-
第1回 身体活動編
わが国の平均寿命は男性が81・47歳、女性が87・57歳(令和3年簡易生命表)であり、今後も平均寿命は延びていくことが予想される(図1)。100歳以上の人口は9万人を超え、いまや「人生100年時代」と言われるようになった。しかしながら、健康寿命と呼ばれる健康上の問題で日常生活が制限されることなく過ごせる期間は男性で72・68歳、女性75・38歳(令和元年)とされており、男性で9年、女性で12年ほどは不健康な期間が存在するとされている。人生100年時代では、単に寿命の延長だけでなく、元気で健康な心身状態で自分らしく過ごすかが重要であろう。
さて、健康寿命を損ねる危険を増大させてしまう原因のひとつにフレイルが挙げられる。フレイルとは、加齢により心身が老い衰えて「虚弱」や「老衰」などと表現されていた状態であり、対処が遅れると健康寿命を失ってしまう恐れがある。さまざまなきっかけでフレイルが発生もしくは悪化するとされており、なかでも加齢に伴って筋力が低下したり、筋肉量が減少したりしてしまうと、動作が緩慢になり活動量も減少する。その結果、さらに筋力の低下や筋肉量の減少を招いてしまい、悪循環を形成する。フレイルの予防や改善の対策の第一歩として、活発な身体活動が推奨される。
では、どの程度の運動が適切とされるのか。ひとつの目安にWHO(世界保健機関)から発表されている身体活動と座位行動に関するガイドライン(65歳以上)が参考となる(図2)。具体的には、65歳以上の高齢者では中強度の有酸素運動(少し息がはずむ程度のウォーキングなど)を週に150〜300分、筋力トレーニング(スクワットや椅子の立ち座り動作など)やバランス運動(片脚立ちなど)を週2~3回の実施が目安となる。また、歩数を目安に身体活動を促進することも有効である。歩数計を持つことで1日あたりの歩数が2000~2500歩ほど増加するとの報告もある。健康日本21(第二次)では、65歳以上の1日あたりの歩数の目標値を男性で7000歩、女性で6000歩に掲げられていた。
しかし、急激な身体活動の増大は、身体への過負荷となり、体調の不調を招く結果ともなり得る。また、身体機能の状態に合わせて、個人の目標を設定することが望ましい。現在よりも10分間の身体活動の増大で、死亡、生活習慣病、がんのリスクが3〜4%減少できるとも言われる。まずは、無理なく10分間の身体活動の増大を促すのも有効であろう。成人での通常歩行における1分間の歩数は110~120歩とされている。高齢者では1分間で100歩程度と計算して、1日で10分間もしくは1000歩の増大からを目安にすることがわかりやすく、取り組みやすいであろう。
また、身体活動には運動のみならず、生活活動も含まれる。そのため、適度な運動を習慣化することに加え、日常生活での活動を促進することも重要となる。例えば、エスカレーターやエレベータの代わりに階段を使用する、目的地のひとつ前でバスを降りる、買い物などでは少し離れた場所に駐車する、などの普段の生活に取り入れられる活動で身体活動を今よりも少しでも増やすことが推奨される。さらに、多すぎる座位時間も問題視される。座っての活動の際は、30~60分に1回は立ったり、少し歩くなどして、座りっぱなしの時間を短縮することも推奨される。
プロフィール
氏名 牧迫 飛雄馬
現職
・鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
・国立長寿医療研究センター予防老年学研究部 客員研究員
・放送大学 客員教授
学歴
平成13年 国際医療福祉大学保健学部理学療法学科卒業(理学療法士)
平成15年 国際医療福祉大学大学院博士前期課程修了(修士(保健学))
平成21年 早稲田大学大学院博士後期課程修了(博士(スポーツ科学))
専門領域
健康・スポーツ科学、介護予防、地域リハビリテーション、老年学
専門理学療法士(生活環境支援理学療法・基礎理学療法)、認定理学療法士(介護予防)