人生100年時代の体づくり ~オーラル編 第2回~ -教えて健康法-
第2回 「口腔機能低下症」
前号ではオーラルフレイルと全身への影響について記載させていただきました。今回はオーラルフレイルが進行し、重篤となった状態である『口腔機能低下症』と、早期発見のための『お口元気歯ッピー健診』についてご紹介させていただきます。
お口の機能の低下は前駆症状から重篤な症状まで4段階に分類されます(図1)。第1レベルでは、歯の喪失や口腔機能のみならず、社会的または心理的な要因も含まれ、生活活動量の低下からフレイルが始まることがあります。数年に及んだコロナ禍で社会的活動や交友関係が制限され、精神心理的に生活活動意欲が減退し、オーラルフレイルが誘発されている方も少なくありません。
図1. 日本歯科医師会:歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル 2019年版より抜粋
早期発見と予防が重要
オーラルフレイルの症状として軽微なもの(第1~2レベル)を早期発見できず、そのまま放置しておくと、第3レベル、第4レベルと悪化していきます。早い段階であれば可逆的(元に戻れる)のですが、重篤化していくと不可逆的(元に戻れない)になります。口腔機能低下症は第3レベル 「口の機能低下」に位置づけられ、専門的な治療が必要となります。
さらに、第4レベルにまで落ち込むと摂食嚥下障害となり、なかなか回復が難しくなります。そのため、〝咬みづらい、飲み込みづらい、むせる〟などのオーラルフレイルの初期症状を早期に発見し、重篤化しないように予防することが非常に重要となります。また、舌の力(舌圧)は握力と相関関係があることも分かってきており、〝ペットボトルの蓋が開けづらくなった〟という自覚がみられる場合は、既に全身的なフレイルに推移してきている可能性もあります。
オーラルフレイルの症状がみられる場合は歯科受診をおすすめします。歯科で口腔衛生状態、舌口唇運動機能や嚥下機能などの口腔機能の検査を行い、7つの検査のうち3項目以上が該当すると『口腔機能低下症』と診断し、治療を受けることができます(図2)。入院患者さんや在宅療養中の方、施設入居者などを対象とした訪問歯科診療でも可能です。
図2 口腔機能低下症の検査
お口元気歯ッピー健診
前述のとおり、オーラルフレイルを早期発見することが重要ですので、鹿児島県後期高齢者医療広域連合では、76歳及び80歳に到達する被保険者を対象に「お口元気歯ッピー健診」を行っています。対象者には、広域連合から受診券が送付され、鹿児島県内の歯科医療機関を受診してもらい、むし歯や歯周病だけでなく、口腔機能についても健診を行います(健診は無料です)。健診で口腔機能を調べ、オーラルフレイルの兆候がみられたら、口腔機能低下症でないか精査を受けることになります。
口腔機能低下症と診断されたら、口腔体操などで口腔筋機能を向上させること、管理栄養士や介護者と連携すること、ご家族とも協力してもらうこと、といった対策が必要になります。それらについては次号以降で掲載予定です。
プロフィール
氏名 福岡宏士(ふくおか ひろし)
略歴
平成18年3月福岡歯科大学 卒業
平成18年4月~平成19年3月福岡歯科大学附属病院 冠橋義歯学分野
平成19年4月~平成23年3月福岡歯科大学大学院歯学研究科歯学専攻博士課程
平成23年4月~平成29年9月福岡歯科医院勤務
平成29年10月福岡歯科医院開業(親子継承)
役職
平成25年4月~平成29年3月薩摩郡歯科医師会 広報担当理事
平成29年4月~平成31年3月薩摩郡歯科医師会 在宅・口腔ケア担当理事
平成31年4月~薩摩郡歯科医師会 広報、在宅・口腔ケア担当理事
令和元年6月~鹿児島県歯科医師会 医療介護連携委員会 委員
令和5年4月~薩摩郡歯科医師会 会計