よくある質問

高齢期の口腔健康管理について -教えて健康法(オーラル編第3回)-

高齢期の低栄養対策と歯科保健について

超高齢社会の現在、高齢者の『低栄養』が要介護へのリスクを高め、さらに全身状態に影響を及ぼすことが問題視されています。中でも高齢者単独世帯や高齢夫婦のみの世帯が増加し、「毎日の食事の準備が大変、毎日同じものになり飽きる、一人だから簡単にすませる」など少食・偏食傾向となり、健康的に生きるために必要な量の栄養(素)が摂れていない状態『低栄養』になっています。『低栄養』になると、体重減少、筋肉量や筋力の低下、免疫力の低下、感染症にかかりやすい、傷が治りにくいなどの身体の変化がみられ、活動量が減り、閉じこもりがちにもなりさらに食欲低下や食事摂取量の減少で、結果的にさらに『低栄養』を招くという悪循環になるとされています。

 低栄養の原因はさまざまですが、近年では、高齢者をとりまく環境因子だけでなく、咀嚼や嚥下(噛む力や飲みこむこと)など口腔機能の低下(衰え)や味覚の変化といった因子も指摘されています。加齢や歯科的局所の問題(歯周病やむし歯、咬める歯の本数など)による噛む力の低下によって食べ物を咀嚼することが困難になり、食べ物が制限されることや、嚥下機能低下のためにお粥やペースト状の食事が中心になりバランスよい食事ができなくなると、必要なエネルギーやたんぱく質やミネラルなどさまざまな栄養素が不足します。また、例えば高血圧などの全身疾患で減塩食となると、味覚低下で味が感じられず、食欲がわかなかったり、食べる事への興味が薄れたりし、食事摂取量が減り、ますます『低栄養』がすすんでしまうことになります。

フレイルとオーラツフレイル

図1.フレイルとオーラルフレイル

 咬みづらい、むせやすいといった口腔機能が低下した状態は『オーラルフレイル』と呼ばれ、脳梗塞後遺症、パーキンソン病や認知症などでさらに顕著に出現しやすくなるといわれています。また、健康な方でも全身の虚弱(フレイル)が始まる初期段階のサインとしてオーラルフレイルが現れること、オーラルフレイルは要介護や総死亡リスクを約2倍以上も上昇させることも分かってきました(図1)。歯科保健活動として、鹿児島県歯科医師会ではフレイルや低栄養を予防と早期発見するために75歳、80歳の後期高齢者を対象としたお口元気歯ッピー検診を実施しています。

 

オーラルフレイルと誤嚥性肺炎

オーラルフレイル

図2.オーラルフレイルの進行による全身への影響

図2に示すとおり、オーラルフレイルの進行が全身疾患の悪化や認知症の発症リスクを上昇させることが分かってきました。特に、嚥下機能が低下していると、誤嚥性肺炎や窒息をおこすリスクが高くなるため、命に直結する問題となります。

 

 

口腔機能低下症の診断

図3.口腔機能低下症の診断

オーラルフレイルの症状がみられる場合は歯科受診をおすすめします。歯科で口腔衛生状態、舌口唇運動機能や嚥下機能などの口腔機能の検査を行い、7つの検査のうち3項目以上が該当すると『口腔機能低下症』と診断し、治療を受けることができます(図3)。入院患者さんや在宅療養中の方、施設入居者などを対象とした訪問歯科診療でも可能です。

 

オーラルフレイル予防と対策

オーラルフレイル予防および対策には口腔周囲筋のトレーニング(口腔機能訓練)が有効です。口腔機能低下症と診断された場合も口腔機能訓練を中心に治療を行います。重度の口腔機能低下症の場合は口腔機能訓練に加え、摂食機能療法を実施します。具体的には、嚥下造影検査を医科の先生方に依頼したり、その結果をふまえて栄養士と連携して食形態を変更したり、歯科では咀嚼・嚥下しやすいように義歯形態を修正したりと、多職種連携して摂食機能療法を行います。実際に食事する姿を観察し、問題点を抽出する『食事観察』も有効な手段です。食事時の姿勢、食べるスピード、口に含む食べ物の一回量を観察し、ご本人やご家族、施設職員に助言や指導を行って、誤嚥予防と機能維持・向上を目指していきます。

しかし、オーラルフレイルについて患者さまや一般の方々に十分理解してもらい、口腔機能訓練を指導することは至難の業です。そのため、鹿児島県歯科医師会では啓発用リーフレットを作製し、口腔機能の大切さや訓練法について周知を図っています(図4)。  

歯科医師会は、これからもさらに歯、口腔、口腔機能の維持・向上等を通じ、『食べる事、生きること』へ多職種と共同で健康長寿に努めますのでよろしくお願い致します。

オーラルフレイルのリーフレット

図4.オーラルフレイルのリーフレット(鹿児島県歯科医師会発行)

 

福岡宏士(ふくおか ひろし) プロフィール

 

略歴

平成18年3月福岡歯科大学 卒業

平成18年4月~平成19年3月福岡歯科大学附属病院 冠橋義歯学分野

平成19年4月~平成23年3月福岡歯科大学大学院歯学研究科歯学専攻博士課程

平成23年4月~平成29年9月福岡歯科医院勤務

平成29年10月福岡歯科医院開業 福岡歯科医院 院長

 

役職

平成25年4月~平成29年3月薩摩郡歯科医師会 広報担当理事

平成29年4月~平成31年3月薩摩郡歯科医師会 在宅・口腔ケア担当理事

平成31年4月~薩摩郡歯科医師会 広報、在宅・口腔ケア担当理事

令和元年6月~鹿児島県歯科医師会 医療介護連携委員会 委員

2020-10-02
カテゴリー: 教えて健康法 

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