第1回「疾病予防のための運動の大切さ」-教えて健康法 運動による疾病予防編-
身体活動の低下と疾患の発症
普段から運動することは、身体にとって良い影響があることは多くの人が認識していることと思います。体力を維持したり、気分が晴れやかになったりと、身体だけでなく心の健康にも運動の効用が期待されます。運動習慣を有しており、積極的な身体活動を行っている人では、脳血管疾患や循環器疾患、認知症などのさまざまな疾患の発症リスクを下げることがわかっています。また、身体活動量の多い人では、がん罹患の危険性が低くなることも示されています。ここで言う身体活動とは、多くの場合は特別な時間を設けて運動している活動だけではなく、仕事や余暇での運動や歩いたり立ったりしている時間も含めた日常生活での身体活動を表しています。つまり、運動のための特別な時間をつくることが難しくても、普段の生活の中で積極的に階段を利用したり、買い物や通勤のために歩いたりして身体活動を高めることは、疾患の予防のためにも重要となります。わが国における脳心血管病による死亡数への危険因子の影響を調べた報告によると、低い身体活動は喫煙や高血糖よりも死亡の危険を高める要因であり、年間で4万人以上が低い身体活動によって死亡していると推計されています(図)
運動による疾病予防効果
普段の生活で気軽に取り入られる身体活動を高める方法は、ウォーキングです。普段の生活では、どのくらい歩いているでしょうか。最近では、スマートフォンや時計にも歩数計が搭載されている機種もありますので、ご自身が普段どの程度の歩数であるかを調べてみることをお勧めします。表には、疾病の予防のために推奨される1日の歩数の目安を記載しています。例えば、認知症や心疾患の予防には1日5,000歩以上、高血圧症や糖尿病の予防には1日8,000歩以上が推奨されています。ただし、体力や基礎疾患などの個人のさまざまな背景によっては、決して無理はしないほうがよい場合もありますので、目安として参照ください。また、健康日本21(第二次)では、現在よりも1日あたりの歩数を1,500歩程度増加させること目標にしています。目安として、通常の歩行では1分間で約100歩、つまり10分間で約1,000歩となります。1日あたり1,500歩の増加を達成するためには、いまよりも約15分間多く歩く時間を確保するとよいことになります。
また、推奨される身体活動では、中等度の活動時間の増大が望まれます。ゆったりと歩くだけではなく、少し息がはずむ程度の身体活動の時間を確保することが勧められています。認知症や心疾患の予防では1日あたり7.5分以上、高血圧症や糖尿病の予防では1日あたり20分以上の中強度の活動時間の確保が推奨されています。一般成人においては、十分な健康増進を図るには、週150~300分(1日あたり20~25分程度以上)の中強度の活動時間が望ましいとされています。しかし、急に始めてもなかなか長続きしません。普段の生活のなかで取り入られるように、小さな目標をクリアしながら、徐々に身体活動を高めていき、継続可能な生活習慣を身につけることが大切です。
プロフィール
氏名 牧迫 飛雄馬
現職
・鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
・国立長寿医療研究センター予防老年学研究部 客員研究員
・放送大学 客員教授
学歴
平成13年 国際医療福祉大学保健学部理学療法学科卒業(理学療法士)
平成15年 国際医療福祉大学大学院博士前期課程修了(修士(保健学))
平成21年 早稲田大学大学院博士後期課程修了(博士(スポーツ科学))
専門領域
健康・スポーツ科学、介護予防、地域リハビリテーション、老年学
専門理学療法士(生活環境支援理学療法・基礎理学療法)、認定理学療法士(介護予防)