第3回「メタボリックシンドロームの予防のための運動」-教えて健康法 運動による疾病予防編-
メタボリックシンドロームとは?
メタボリックシンドロームとは、内臓のまわりに脂肪が過剰に蓄積した状態を前提に、高血圧、血清脂質異常、高血糖のいずれか2つ以上をあわせもった状態を示し、動脈硬化を進行させてしまい、心臓病や脳卒中などになりやすい病態とされます。通称、「メタボ」と言われます。日本では、図1に示すような基準を用いて診断されます。メタボリックは「代謝」、シンドロームは「症候群」を意味しますので、直訳すると代謝症候群となりますが、代謝とは直接的には関係しない高血圧も主要な項目に含まれ、国内でも名称が定着してきていますので、メタボリックシンドロームと表記するのが一般的です。CTスキャンによる臍の位置での内臓脂肪面積が100cm2以上で、内臓脂肪の蓄積による悪影響が顕著とされており、内臓脂肪面積100cm2を基準にウエストサイズに換算すると男性85㎝、女性90㎝が算出され、これらの値が用いられています。
メタボリックシンドローム予防と運動
メタボリックシンドロームは、「内臓脂肪症候群」とも呼ばれており、メタボリックシンドロームの改善には内臓脂肪を減少させることが重要となります。そのため、運動、食事、生活習慣(特に喫煙)による対策が鍵となります。また、高血圧、血清脂質異常、高血糖に対しては、必要に応じて適切な治療を検討することも大切です。 メタボリックシンドロームの予防および改善のための運動では、運動によるエネルギー消費を促すことが主な目的となります。エネルギー消費量がなるべく多く見込まれる運動であれば、どのような方法でも良いと考えますが、筋力トレーニングよりも有酸素運動を中心としたほうがエネルギー消費量を確保するには推奨されます。有酸素運動には、ウォーキング、ジョギング、自転車エルゴメータ、水泳(水中ウォーキング)などが含まれますが、いずれの種目でも効果に大きな差はないと考えます。ご自身の生活スタイルや興味に合わせて行える種目に取り組み、運動を始めること、継続することが重要です。
1週間当たりの運動量が多いほど、内臓脂肪量も減少しやすいとされています。低強度の 運動を長時間行うことでも、高強度の運動を短時間行うことでもエネルギーは消費しますが、中強度の運動をやや長めに行うことが効率的でしょう。1日に30分の運動を1回行っても、10分の運動を3回に分けて行っても、両者の減量効果に差がないとされています。つまり、運動の効果は実施する総運動時間に対応すると考えられます。 メタボリックシンドロームの改善には、1週間当たり10メッツ・時以上の運動が推奨されます。「メッツ」とは運動で消費するカロリーが、安静時の何倍に当たるかを表す国際的に使用される単位で、安静に座っている状態が 1 メッツ、普通の速さでの歩行が 3 メッツに相当します(表)。散歩は3.5メッツに相当しますので、1時間の散歩を週2回行うと、3.5メッツ×1時間×2回=7.0メッツ・時となります。その他に、生活活動においても積極的な身体活動を推奨することが大切です。例えば、風呂掃除3.5メッツを毎日3分行うと1週間で1.2メッツ・時となります。また、エスカレーターやエレベータを使わずに階段で移動する、スーパーの広い駐車場では少し離れたところに駐車して歩いて店内に行くといったような、毎日の生活の中で、できるだけ身体活動を増やす機会を見つけて、積極的に身体を動かすことが重要です。
プロフィール
氏名 牧迫 飛雄馬
現職
・鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
・国立長寿医療研究センター予防老年学研究部 客員研究員
・放送大学 客員教授
学歴
平成13年 国際医療福祉大学保健学部理学療法学科卒業(理学療法士)
平成15年 国際医療福祉大学大学院博士前期課程修了(修士(保健学))
平成21年 早稲田大学大学院博士後期課程修了(博士(スポーツ科学))
専門領域
健康・スポーツ科学、介護予防、地域リハビリテーション、老年学
専門理学療法士(生活環境支援理学療法・基礎理学療法)、認定理学療法士(介護予防)