第4回 「認知症予防のための運動」-教えて健康法 運動による疾病予防編-
認知症の危険因子
世界の認知症患者は4680万人(2015年)と推計されており、2030年には7470万人、2050年には1億3250万人まで増加すると予測されています。わが国においては、要介護の原因の第1位が認知症となっています(基礎調査)(図1)。糖尿病、高血圧、肥満、喫煙、うつなどの生活習慣に関わる要因は、認知症の重大な危険因子となります。そのため、これらの生活習慣病を予防し、適切に管理することは、認知症予防のためにも重要となります(図2)。 とくに身体活動が不足することは、認知症の発症や認知機能の低下に強く関連します。つまり、運動によって身体活動を向上させて活動的なライフスタイルを確立することは、認知機能の低下を抑制するために非常に重要です。
認知症の予防と運動
これまでの多くの研究によって、定期的な運動習慣を有する高齢者では将来の認知症発症の危険が低減されることが示されています。また、有酸素運動や筋力トレーニングなどの運動を実施することによって、認知機能の改善や脳容量の増大効果が報告されており、積極的な運動の実施による認知機能の低下を抑制させる効果が期待されています。
おススメの運動
運動の種類では、とくに有酸素運動を中心とした身体活動の向上によって認知症の発症の予防や遅延に効果が期待されています。少し息がはずむ運動を1回30分程度、週2~3回実施する習慣がおススメです。ウォーキングであれば、いつもよりも少し大股で歩くことを意識すると、運動の強度があがります。 また、認知症予防のための効果的な運動では、運動して身体を動かすだけではなく、脳に刺激が伴う活動を付加することが推奨されます。身体と脳に対する刺激を伴う活動を組み合わせた方法のひとつとして、コグニサイズがおススメです。
コグニサイズとは、国立長寿医療研究センターで開発された認知機能低下を予防することを目指した運動プログラムで、cognition(=認知)とexercise(=運動)を掛け合わせた造語です(図3)。
コグニサイズでは、運動課題と認知課題を同時に実施するが求められます。つまり、運動しながら頭を使う、頭を使いながら運動する、といった2つのことを同時に行います。たとえば、ステップ台での昇降運動や腿上げ運動などの全身運動を実施しながら、計算課題(例:100、99、98・・・のように数字を逆に数えるなど)や言語課題(例:しりとりや「か」から始まる単語を挙げていくなど)を同時に行います。認知課題は、比較的容易な課題から開始して、徐々に難易度を高度にしていくことが推奨されます。
コグニサイズでは、課題自体が上手くなることが最大の目的ではありません。身体と脳のどちらにも適度な刺激を与えて活性化を促すことが目的です。運動課題と認知課題を同時に課されることで、より運動への注意や集中を求められる状況を作ることでの効果が期待されます。そのため、コグニサイズでは認知課題を間違っても構いません。間違いに気づいたり、間違えないように集中して注意をうまく配分したりして、脳に刺激を与えることが大切です。適度に脳と身体に刺激を与えて、何よりも楽しく実施することが重要です。 一時的な運動にとどまらず、いかに習慣化できるかがポイントとなります。仲間を見つけて一緒に運動したり、市町村で開催されている教室(運動に限らず、文化活動でも良いです)に積極的に参加したりすることも認知症予防のためには非常に重要です。
プロフィール
氏名 牧迫 飛雄馬
現職
・鹿児島大学医学部保健学科理学療法学専攻 教授
・国立長寿医療研究センター予防老年学研究部 客員研究員
・放送大学 客員教授
学歴
平成13年 国際医療福祉大学保健学部理学療法学科卒業(理学療法士)
平成15年 国際医療福祉大学大学院博士前期課程修了(修士(保健学))
平成21年 早稲田大学大学院博士後期課程修了(博士(スポーツ科学))
専門領域
健康・スポーツ科学、介護予防、地域リハビリテーション、老年学
専門理学療法士(生活環境支援理学療法・基礎理学療法)、認定理学療法士(介護予防)