第3回 運動とこころの健康~からだを動かしこころの充電を~ -教えて健康法 メンタルヘルス編-
こころと身体はつながっている
『♪最近ストレッチを怠っているからかなぁ?上手く開けないんだ心がぎこちなくてOh♪』
これは、日本の人気ロックバンドMr.children(ミスターチルドレン)の「箒星(ほうきぼし)」という曲の歌詞の一部です。
2007年に発売され、流行したこの曲を皆さんご存知でしょうか。
「ストレッチを怠ると心が上手く開けない」という歌詞は、ストレッチを怠ると身体は硬直し、身体が硬いと心も硬く閉ざしてしまうという、まさに心と身体はつながっていることを端的に表わしていると感じた一文です。
ストレスを感じているときこそ身体へのアプローチを!
モヤモヤ、イライラした感情のとき、または、疲れたとき、皆さんはどうしていますか?
多くの人が「疲れたらからだを休める」と答えるでしょう。ゆっくり休むことで回復に向かうことができる疲労であれば問題ないでしょう。
しかし、「休む」だけでは解消できない疲労を感じることがあります。そこには、質の高い睡眠や休息がとれていないこととも関係がありますが、そんな時こそ、「身体へのアプローチ」が効果的です。
ストレスと感じている事を「考えない」ようにするのは、難しいことです。だからこそ、悩みごとをずっと抱え込み、脳やこころを酷使するのではなく、ストレスは脇に置き、身体へのアプローチに集中してみましょう。
適度に軽い運動は、血流を促進し、質の良い睡眠に導き、疲労回復を早めます。一方、休日にダラダラと昼寝などをして過ごすと、かえって、自律神経(※1)のバランスを崩します。
思い切って、積極的に活動してこころと身体のリフレッシュをはかってみませんか。
なんとなく不調のときは「歩こう!」
最近の研究によると、ウォーキングやストレッチなどの軽い運動に多くの健康効果があることがわかってきました。
身体を動かすことで、ストレスホルモン放出抑制作用が強力になり、メンタルヘルスの改善につながると考えられています。
特におすすめは、「歩く」ことです。リズムよく、心地よいと思うペースで歩きましょう。ウォーキングなど一定のリズムを繰り返す運動は、自律神経を整えてくれると言われています。 「歩く」ことで、脳内ホルモンの中でも抑うつで減少するセロトニンやドーパミンといった神経伝達物質が増え、また、脳の栄養になる脳由来神経栄養因子(BDNF)が増えるなど、脳に変化をもたらします。外に出て「歩く」ことが難しい場合には、家の中で、その場での足踏み運動もおすすめです。リズム運動を始めて5分ほど経つとセロトニンが分泌し始めるという報告もあります。
厚生労働省の身体活動ガイドライン「アクティブガイド」では、今より10分多く身体を動かそうという「+10(プラステン)」をメッセージに掲げています。
10分は歩数にするとおよそ1000歩です。プラス10分、いつもより多く歩くことで身体活動を増やしていきましょう。
意識を外に向けて楽しみながら歩く
さらに、「歩く」ときに、自分自身の身体や汗に意識を向けた人より、「一緒に運動する人」「周りの景色」に意識を向けた人の方がウォーキング後の否定的感情が少なく、高揚感や心地よさが高かった、という報告もあります。
ポイントは「楽しく感じられる」ことです。
すき間時間にストレッチを意識する
悩みや不安など考えすぎると、身体に力が入り、呼吸も浅くなりがちです。
ゆっくり呼吸をしながらストレッチをすることは、緊張している身体や筋肉をゆるめ、血行を促進してくれます。
そこで、「朝起きたとき」また、「仕事の合間」「就寝前」など、すき間時間を見つけて“ストレッチ”を取り入れてみましょう。
女性勤労者40名を対象に毎日10分間、就寝前にストレッチを実施してもらった結果、3週間のプログラムの実施で、抑うつと更年期症状の改善が確認されたという報告もあります。
特に大事なポイントは、“ストレッチされている部位をじっくり感じながら”行うことです。身体がほぐれていくことにより、自然と気持ちもゆったりと穏やかになっていくことでしょう。
(※1)自律神経とは、「呼吸をする」「血液を流す」「食べ物を消化する」など、私たちが生きていくために必要な働きをコントロールしてくれる重要な神経で、自分の意思で動かせない心臓や血の流れなどの動きを支配する神経です。
執筆者
鹿児島県民総合保健センター
所長 桶谷 薫